2024SSコレクション in Paris~Drまあやx吉岡里奈コラボレーション対談

雑多な人間性をあるがままに飲み込む街、色と欲渦巻く新宿をファッションに昇華する

Drまあやの2023年9月に行われるパリコレクション。そのモチーフは新宿! レトロロマンあふれる、吉岡里奈さんのイラストとのコラボレーションで、Drまあやが生み出したかったものとは何か?吉岡さんとの対談で、Drまあや自身の中でもまだ言語化されていなかったものが、次第に姿を現します。

Dr.まあや:吉岡さん、今回は快くコラボしてくださってありがとうございました! 吉岡さんの絵が大好きで、個展を見に行ってて、大好きな吉岡さんの絵がたくさんある中に吉岡さん本人がいて……幸せな空間でした!

吉岡:個展に来てくださってありがとうございました! 私もまあや先生のことはテレビなどで見て存じ上げていて、そんな方が私の個展に!ってちょっとミーハーに(笑)嬉しかったです。 今まで、何度か私のイラストをファッションに、というお話はいただいたことがあったのですが、実際に個展に足を運んでくださって、直接申し込んでくださったのはまあや先生が初めてで、それもすごく嬉しかったです。

Dr.まあや:吉岡さんの絵には、妙な懐かしさと女性のエロティシズムがあるだけじゃなくて、それを鼻の下を伸ばしてみている男性を「バカだねえ」と思ってみてる、そういう視点も同時にあって、私、そのおバカな男たちの描き方がすごく好きなんです。「あ~、あいつらこういう顔してるよねえ(笑)」って。

吉岡:私、絵の描き方がいまだにアナログしかできなくて、鉛筆と消しゴムで下書きして、ってやってるんです。デジタルの時代にアナログしかできないのがコンプレックスだったんですけど、今逆にアナログの良さを感じてもらえて、よかったなと思ってます。まあや先生の作品は、手作業で、ここにある一枚しかないって、すごい希少性ですよね。

Dr.まあや:うーん、ファッションだと一枚しかない一点モノって芸術作品なのか、商品なのか、難しいんですよね。例えば今、世の中の主流の服は、1枚デザインして世界で100万枚作られて、1枚1000円とかで売られる時代。そんな中で各ブランドが1枚10000円のTシャツを出して、そこにどういう価値を見出してもらえるのか? お客さんがそれを見出してくれなければ、捨てられていくしかない時代です。服はどんなにいいものでも、人が着たら価値がどんどん下がっていくし。

吉岡:ビンテージとかは上がりますよね?

Dr.まあや:ジーンズとか、ごく一部のものは、ですよね。ほとんどのものは価値が下がっていく。ファッションとして多くの人に見て、着てほしいというのと、芸術として評価される服と、なかなか悩ましいですね。

吉岡:みんなが着ている服は着たくないという人と、みんなと同じ服を着て安心したい人もいますしね。

Dr.まあや:私の場合、体形的にほかの人と服がかぶることはあまりないけれど、きれいな人、痩せた人と同じ服は着たくないんですよ。今、ファッションの世界もだいぶ体形が幅広くなってて、特にアメリカとかではプラスサイズのモデルさんをけっこう用意してくれたり、モデルが小さい子どもでもいいですよとか、必ずしも9頭身のモデルだけではなくなってきてる。でも日本だと、東京ガールズコレクションに、女性芸能人とかが「太ってて面白い」からモデルに選ばれて出る、日本はまだそういうレベルかな。

吉岡ああ、それはありますね。

Dr.まあや 去年デザインフェスで、プラスサイズモデルさんたちだけでファッションショーやったんですよ。日本にも、プラスサイズモデルさんの集団もあるんですよ。すごく楽しかったし、かっこよかった。でも痩せてる人と太ってる人がミックスでショーをやったり、雑誌に出たりは、まだ日本はしてないですよね。そうなってくると、もっといいなと思ってます。

Dr.まあや 今回、新宿をテーマにデザインしてみようと思ったのは、私はロンドンに服を学びに行ってそれから東京に帰ってきたけど、ロンドンは確かにすごいけれど、日本にもすごく面白い人がいっぱいいて、特に東京には変わった人、面白い人が山のようにいる。今回のテーマは東京にしようと思ってましたが、東京ってちょっとテーマが広すぎて(笑)。で、どこがいいんだろうと思ったときに、自分が普段から自転車でまわっている新宿がいいなと。新宿って場所によってかなり顔が違うじゃないですか。

吉岡 伊勢丹とかはめちゃハイソなのに、すぐ近くにゴールデン街もある。

Dr.まあや:呑み屋街でもサラリーマンが吞んでるエリアもあるし、何やってる人かわからない人ばっかりで吞んでるエリアもあるし(笑)。ゴールデン街のあの濃い世界に、今は外国人観光客も入り込んできてて、その先に歌舞伎町のギラギラがあって。

吉岡:トー横に、訳ありの人たちがたまってくるのも、私にはすごく興味あって。例えば70年代とかもあの場所はそういうところだったわけですよね。なんか磁場があるんじゃないかと、そういう人が集まってくる。

Dr.まあや:ああ、磁場、ねえ。

吉岡:行き場のない人たちが集まってくる。欲とか色とか、なんか念みたいなものがある気がして。

Dr.まあや:なんかちょうどいい場所なんでしょうね。

吉岡:まあや先生の依頼を受けてから、歌舞伎町のことをいろいろ調べてて、そうしたら今、歌舞伎町の現状ルポみたいな本がいろいろ出版されてて、多くの人が「あすこに何かある」って気づいてるんだなと。過去の歌舞伎町の資料なんかもだいぶ調べたので、かなり歌舞伎町に詳しくなりました。

Dr.まあや:若いころは渋谷のほうが好きで、渋谷はかっこよくて、そこにいる人たちの中にまざることが、なんかいいなと思ってた。働き始めてから青山や六本木に連れていかれるようになって、それはそれで面白かったけど、だんだん「自分の置き所ってどこだろう」と思うようになって、その時はもう渋谷じゃないなって感じたんですよね。

吉岡:渋谷自体も90年代とは違っちゃいましたしね。

Dr.まあや:で、新宿には仕事で通ってて、すごく居心地がいいんですよ。新宿では雑踏にいろんな変な人に混ざってても、誰も目を止めない。異物が異物扱いされない感じ。歓迎でもないんだけど、ただ「いるな」ってだけで。なんか私もここにいていいのかな、みたいな気持ちになるんですよね。ま、たまには「やべーやついる」とか言われたりしますけど(笑)。街中にいろんな客引きとかいるけど、私なんかそういうのに声かけられなくて、私は新宿で透明人間みたいな気持ちで歩いてるんです。「すいません、居させてください」みたいな。でも「生きててもいいよね」って思える。怖い思いもウザい思いもしないでいられて、なんというか、生きやすい。

吉岡今回のモチーフに新宿を選んだのはそういう思いがあったんですか?

Dr.まあや:新宿の持つパワーやギラギラ感、いろんな人が探りながら自分の居場所を求めている、そういう新宿を作品に落とし込みたいと思ったんです。この自分のカラフルの感覚と、新宿のネオンがすごくあってると思ったし。ニューヨークにもギラギラしてるけど、タイムズスクエアには猥雑が足りない。日本企業も、ソニーとかいろんな企業があそこに看板を上げるのが夢だった時代がありましたよね。ニューヨークにはパワーはあるけど、光と影の影に引き寄せられる私には、ちょっと物足りないんですよ。若者だけでなくおじさんおばさんの行き場のない人もあそこにいて、そういう影の中で、エロを武器にした人たちのエネルギーは、タイムズスクエアにはいない。

Dr.まあや:風俗産業の是非というのは、今、いろいろ議論されていますが、もちろん強制されてなんていうのは絶対いいわけないんですけど、女性のエロってすごく否定されがちなのも、私はちょっと違うなと思ってるんです。好きで働いてるわけじゃない人が多いだろうけど、そこが居心地いい人はゼロだろうか? とかく女性の性慾を否定しがちだけど、そういうのも嫌いじゃないって女性もいるんじゃないかと。

吉岡:私の個展は、以前は吉原という地名だった場所にあるカストリ書房さんで場所をお借りして開かれてて、そのご縁がなければそこに行くこともなかったと思うんですが、その街に行ってみると、そこで生活する人の空気とかいろんなことが肌で感じられて、いろいろ考えるようになりました。

Dr.まあや:吉岡さんの個展て、女性のファンもたくさん来てますよね。

吉岡:初期のころは年配の男性が多かったんですが、最近女性が増えてきて嬉しいです。私自身、女性としてのコンプレックスがいろいろあって、それを作品として出しているんですが、そういうところに共感していただいているみたいで、それもすごく嬉しいんです。

Dr.まあや:ああ、それ、すごくわかる! 私も多くの人が好きっていうものをあんまり楽しめないタイプだけど、共感できる仲間がいるっていうのは嬉しいですよね。

吉岡:そうなんです! 今まで描かれてきたエロって、男性目線、男性から見た男の理想のエロじゃないですか。その薄っぺらさに腹も立っていたり、それを茶化すような意味で描いてたりもするんですが、最近そういう「茶化してる」っていうのが女性たちにわかってもらえてる気がしています(笑)。

Dr.まあやアハハハ、ほんと、エロいおっさんって面白い顔してるからね!

吉岡 そういうところもわかってくださるのが、本当に嬉しい!(笑)最近、個展を見に来てくださる方に女性のお客様が増えてるのは、ただエロいだけじゃなくてリテラシーもあるとか、こっそり(?)入れてる毒とかわかってくださってるのが嬉しいです。

Dr.まあや 吉岡さんの絵は皮肉がすごく面白い。そういうところをぜひ、今回の私の作品に入れたくて。

吉岡 私が描いた元の絵を、まあや先生がどんなふうに扱ってくださるのか、すごく楽しみなんですよ。ご自分がセクハラに合ってる絵とか、どう使うんだろう?って。

Dr.まあや 私にも女性としてのコンプレックスはすごくあって、例えばいわゆる女の子女の子した生き方を生きられなかった後悔もあるんです。脳外科医とデザイナーとして走ってきて、男社会に入って勝ちあがってやる! だからそういうのは捨てて生きてきたと思ってたけど……女性性を謳歌する生き方もあったんじゃないのか?とか。

吉岡:あー、私には「男性が作った女性らしさをぶち壊してやりたい!」というのがあって。

Dr.まあや:男女平等じゃない世界を男性が作り出している中で、女性性を武器にのし上がっている女性もいる。それを完全否定できるかというと、なんかちょっと難しいんですよ。

吉岡:ああ、それは、うん。したたかとも言えますし。

Dr.まあや:今回、歌舞伎町と言えば胡蝶蘭というので、胡蝶蘭を吉岡さんにいろいろ描いてもらって、その華やかさ、キラキラした女性の中におじさんがちりばめられるという……。

吉岡:キラキラの中にちりばめられるおじさん(笑)。

Dr.まあや:実は今回の主役は、そういう女性の中に私は東電OL(※)のイメージを持ってて。

吉岡:私もあの事件はすごく印象に残ってます。それが今回のモチーフと聞いて、当時のルポなどを読み返して、実際の方はショートカットなんですが、物語の主人公としてロングに描きました。いつもは女性の目には光を入れるんですが、今回は光と影、というか、目に光は入れていません。

Dr.まあや:いいか悪いかは別として、昼の顔と夜の顔を持っていて、その2つでバランスをとっている女性って、いっぱいいると思うんですよ。あの事件があったとき、多くの女性が彼女に共感したように、たぶん今でもそういう女性はいっぱいいる。新宿、特に歌舞伎町は、そういう女性が居場所を見つけられる、そういう場所なんじゃないかという気がします。

吉岡:東電OL事件は映画や小説にもなってますが、これをファッションにする人はたぶんまあや先生以外いないと思います。

Dr.まあや:そういう歌舞伎町の空気を、歌舞伎町を知らない人にも伝わるように、音楽や映像も作って、パリコレにもっていきたいんですよね。ただ可愛いデザインだったら、東電OLは出てこない。新宿歌舞伎町ってなんなんだ?って、どこまでパリで理解されるかわからないですけど、それでも興味を持ったらすごく詳しく調べてくれる、正しく理解しようとしてくれる人がいるから、私も全力で伝えていきたい。今回は吉岡さんの絵なくしては実現出来ないテーマだったんで、パリに吉岡さんの絵と一緒に行けるのはすごく嬉しい。ワクワクします。

吉岡:私は、まあや先生が私の絵でどんなふうに遊んでくださるのか、それがすごく楽しみです。ただ絵をプリントして、ではなく、どんなふうにデザインに落とし込んでくださるのか、全然想像がつかない(笑)。

Dr.まあや:コレクション、楽しみにしててください! パリだけでなく、日本でも展示会やりますんで。いまのところラフォーレ原宿が決まっていますが、どこかいい場所を探して、絶対に歌舞伎町でもやりたいです。

※東電OL事件

1997年3月9日、渋谷の丸山町にあるアパートの一室で、女性の他殺体が発見された。被害者が、一流大学を卒業した東京電力の管理職というエリート女性でありながら、夜は路上で客を拾う売春行為をしていたという、昼の顔と夜の顔のあまりの乖離に世の中は衝撃を受けた。事件の詳細が報じられるにつれて、「この女性は私自身だ」と感じる女性が多くあらわれたことでも、また大きな社会問題となり、フィクション・ノンフィクションともに多くの作品が発表された事件。2023年現在、未解決。